「爆弾」読了

B!

「爆弾」 呉勝浩著

 この小説は2022年上半期「直木賞候補」にノミネートされていた。結果は「夜に星を放つ 窪美澄 著」が受賞し、残念ながらという結果だったけれど、「爆弾」は私の夏休みを意味あるものにしてくれた面白い物語だった。

 

 犯人(スズキタゴサク)は物語の最初から最後まで取調べ室に居る構成。スズキタゴサクが東京のいたるところに仕掛けられた「爆弾」の在りかのヒントを小出しにする、警察がその「爆弾」の発見、爆発阻止ができるか否かというゲームが展開される。

 

 一見、どこかで見たことのある刑事ドラマのようではあるが、この小説に強い魅力を感じるのは、登場人物が持つ個性と思想にある。

 

 スズキタゴサクは49歳で人生の底辺を生きてきたと告白する。家族が居るわけでもなく、先に明るい未来を見出せる状況にもない、最近流行りの「無敵の人」というやつだ。「社会の端から社会の外に出た」という表現が事件を起こした動機をうまく物語っている。

 

 スズキタゴサクと刑事の等々力、類家は思想の根底の部分では大きく違っていない。読者の多くもこの思想に共感できているはずで、そうでなければこれほどの話題作にはならないはずだ。

 

 このような思想が昔から一般的に存在していたものなのか、時代背景が多くの人の考えをそうさせたのか、はたまた自分がそういう思想を理解できるようになったのかは分からない。ただ言えることは「本音」を表に出せる世界では「ポジショントーク」が無力であること、「ポジショントーク」を基礎とした信念はあまりに脆いということだろう。

 

 薄っぺらい詭弁で良い思いをしている「似非勝ち組」に牽制球を投げるようなこの小説にカタルシスを覚える人は多いのかもしれない。そうであれば今の世の中はなかなかに荒んできているのだろう。

 

 たいへん面白かったと思う。

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