十戒 / 夕木春央
同著者の前作品である「方舟」の評価が高く、本作にも期待して購入。
最後の僅かなページ数や文章でそれまでの認識が一変するというミステリー小説は多々あるが、「方舟」はその頂点に近い出来だった。
「十戒」には読む前から高いハードルが設けられた状態と言える。
あらすじ
殺人犯を見つけてはならない。それが、わたしたちに課された戒律だった。
浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。
島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。
島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。
“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。
犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まったーー。
所感
どうしても前作の「方舟」との比較になってしまう。著者である夕木春央氏の作品に触れたのが「方舟」が初めてであったことも強く影響している。
本作も前作のように芸術的な驚きを与えてくれるのか否か。。。
読了直後の感想としては「方舟」の方が面白い印象を持っていたが、2,3日経過してから思い返してみると「十戒」も同率くらいに感じてきた。
「十戒」を示された登場人物たちが自らに制限をかけていく中で、犯人は絶妙に立ち回っていく。
結果として犯人の完全犯罪は成功する。終盤の犯人の告白でこれまで読んできた物語の見え方が一変する。
前作の「方舟」は一人の登場人物が1対10の多数決に勝利したような印象を持った。一方「十戒」は犯人の告白によって最初に物語の構成が変わる、変わった構成に則って犯人の立ち回りを考えると新たな人物像たちが浮かび上がる。
その面白さに気づくのに少し時間を要した。
終盤の犯人の告白は唐突に始まり、読み進めながら「その論理は通るのか?」と自問していた。
思い返すと、ずっと目の前にあった答えに気付かなかったのだなと思わされる。
面白い作品だった。